タクシーを普段利用する方にとっては「運賃の値上げ」と聞いたら衝撃的ですよね。
値段がどれくらいあがるのか…そんな問題ではなく『上がるという事』が嫌なのです。
当然ですよね。我々も日常生活の中で商品の値段が上昇してしまったら、主婦はピリピリ、旦那はドキドキします。
さて、東京都内では先般タクシーの初乗り運賃が上がりました。
その後のお客様の模様、そしてタクシー事業者やそこで働くタクシードライバーの皆さんは今どのような状況なのでしょうか?
見出し
東京都内タクシー初乗り運賃改定から1ヶ月。その後の影響は…??
東京特別区・武三交通圏のタクシー初乗り運賃がこの度、2007年以来となる15年ぶりに改定されました。
初乗り運賃改定の動きは2022年3月の時点で既に発表があり、同年秋ごろの改定という事で話でまとまり、11月14日から既に適用開始となっております。
注目の初乗り運賃は『1.052km420円』から『1.096㎞500円』で『加算額233m80円』から『255m100円』に変更となっております。改定率は14.24%にのぼります。
「つい数年間にタクシーの料金が値下げしたかと思ったら、また値段が上がってしまって。もうタクシー乗るのやめようかな」
これは11月某日、都内某所にて街頭インタビューに答えたタクシーユーザーの声です。
このような声が聞こえる以上、『都内のタクシー需要は下降気味、タクシー業界はとんでもないことになっているんじゃないか』という考えは容易に想像がつくと思います…。
しかしながら蓋を開けてみると、どうやらそうではなかったという事実も明確に見えてきています。
今回は東京都内タクシー初乗り運賃改定から1カ月。その後の影響を追ってみましょう。
初乗り運賃改定までのあらすじ…
そもそも初乗り運賃って何でしょう?
タクシーに乗る時、タクシードライバーの左中央~下側付近にある料金が掲示された機械を見たことがありませんか?乗車時にそこに明記されている料金こそが『初乗り運賃』なのです。
分かりやすく説明しますと、「乗車スタートしてから●●キロ以内までの料金」が初乗り運賃という訳です。
この「初乗り運賃」は47都道府県とタクシーの営業する「交通圏」で料金が細分化されており、超過した場合も同様に各交通圏の規定によって定めされたキロ数×金額で加算されます。
(お客様が電話やタクシーアプリなどで配車を行った場合は別途配車料金が発生します。)
また、時間帯によって加算を行うケースがあります。
特に深夜帯(22時~5時)は料金が割増になります。タクシーメーターに青色の割増表示が出現することからタクシー業界用語では『青タン』と言われています。
どうして『初乗り運賃』を改定?
では、そもそもどうして都内のタクシーは『初乗り運賃』を改定したのでしょうか?
物価上昇の波に乗ったのでしょうか?或いは利益を上乗せしたいからでしょうか?
どちらも違いますよね。実は初乗り運賃の改定には2020年から2022年の社会情勢とタクシー業界におけるニューノーマルな動きが影響を及ぼしています。
高騰する石油価格と社会情勢
現在世界では石油の『需要と供給』のギャップと、それに伴う投機マネーの巨額の流入などが発生し、原油の先物価格が大きく上昇。つまり原油の高騰が発生しています。
2008年に発生した原油高騰の際は、1バレル103ドル超でしたが、2021年以降は一部の先物取引市場で1バレル140ドルに迫る高値を付けています。
新型コロナウイルス感染拡大とロシアのウクライナ侵攻の影響が大きいとされており、日本に限らず世界では今なお先の見えない原油高騰の真っ只中にいる状況となっています。
石油=つまり、ガソリンは当然ながらこれにより価格が上昇し、タクシーを走行する際に欠かせない「LPガス(液化石油ガス)」も価格上昇しています。
以前とある映画で『石油は国の血液』というフレーズがありましたが、まさに今国の大動脈を担うタクシーは石油高騰で痛手を受けていることは間違いないのです。
避けて通れぬ“コロナ禍”の影響
新型コロナウイルス感染拡大の影響は避けて通れません。
「東京オリンピック・パラリンピック」が開催され、インバウンド需要がものすごいことになると構えていたはずが、世界的パンデミック“新型コロナウイルス”の感染拡大によって儚くも悲しいことになってしまいました。
緊急事態宣言時は街から人が消え、当然タクシーの利用は皆無に近かったと言えましょう。
休車や休業、事業者によっては廃業を余儀なくされたケースもあり…本当に今思い返してみても辛い日々でした。
感染防止対策の設備投資
コロナ禍当初はタクシーも「密閉で感染の温床だ」という根も葉もない根拠によって乗車を敬遠されたことが一時期ありました。
しかし換気のしやすさ、乗降時等における消毒の徹底、タクシードライバーの点呼時の健康管理、マスク着用で次第に「タクシーは公共交通機関で一番安全な乗り物」と認知されるようになり、徐々にお客さまの利用が増加していきました。
その背景に感染防止対策への設備投資があります。
多くのタクシー事業者が新型コロナウイルス感染防止対策機器類として飛沫防止シールドや、消毒グッズといったサプライ品の導入によってタクシー事業者では設備投資の費用負担が増加している傾向があります。
機器端末の設備投資も
そしてこの数年で大きく飛躍を遂げたキャッシュレス決済の端末、ドライブレコーダーなどの端末機器への設備投資も急ピッチで行われました。
また、キャッシュレス決済となると当然ながら取り扱い事業者は「手数料」が引かれるため、利便性向上で利用客増加傾向の途上で痛手となっていることは否定できないようです。
こういった状況を踏まえた収益減少が全国で発生している現実があり、タクシー業界としても今後対策を講じてなんとしても全国的に続いた減収を食い止めたいところでなのです。
各地で起こる『初乗り運賃改定」
初乗り運賃の改定は、実は東京特別区のみで発生しているものではありません。
2022年に入り岩手県、新潟県、富山県、岐阜県、奈良県、岡山県、広島県(都市圏)、香川県、福岡県、長崎県、鹿児島県などで初乗り運賃改定の申請をタクシー事業者を管轄する各運輸支局に申請しています。
各地域でも原油高騰やコロナ禍による設備投資の費用負担と、感染拡大初期の利用率減少などの同様な理由であることから苦渋の決断であったことが伺えます。
また、愛知県の名古屋市とその近郊にあたる瀬戸市、津島市などのタクシー事業者では12月5日か運賃改定が施行されており、東京特別区同様に初乗り運賃の上限額が1.31km450円から1.11km500円に変更され、加算運賃は231m毎80円から、232m毎90円へ変更となりました。
海外でも余波は広がる
余談ですが海の向こうでも運賃値上げの波が押し寄せています。
韓国のソウルでは12月1日からタクシー深夜運賃の一部が値上げ、台湾でも台北などの北部3市のタクシーが来年4月から初乗り運賃を値上げするとのことです。
国内だけのお話しかと思いきや、実は海外でもコロナ禍や石油高騰の影響による運賃値上げの余波は起きているのです。
初乗り運賃を改定するのは簡単?
ところで、この「初乗り運賃改定」というのはそもそも簡単に出来るものなのでしょうか。
タクシー事業者が「今から値上げします」と言って簡単に出来るものではありません。
そもそもそんなことをしてしまってはクレームどころではない…ですよね。
では一体どうすればこの「初乗り運賃改定」を行うことが可能なのでしょうか?
認可がないとできない
タクシー事業者単体で出来るものでは当然ありませんで、ここまでのお話しでピンときた方もいらっしゃるかもしれませんが、各営業地域の運輸支局からの申請を先ず行います。
タクシーの運賃改定手続きを行う場合、『3か月以内に改定を行う対象区域の7割以上の申請が必要』となります。
各営業地域の運輸支局及び国土交通省の認可が下りない限り、運賃改定は絶対に不可能なのです。
国土交通省によると、東京特別区武三交通圏のタクシー事業者においては2021年末以降から初乗り運賃値上げを要望する申請が相次いでいたということで、その数なんと245社に上っていました。
そこで2021年12月24日から翌2022年3月23日までの3か月間の間に申請期間を設けたところ、締め切りまでに運賃改定手続きを行う事業者がなんと9割を超えていたのです。
これはタクシー車両台数にして2万7千台以上の数になります。
初乗り運賃改定後の今、東京のタクシーはどうなっている?
初乗り運賃改定から一カ月あまり、東京都内のタクシーはどのような状況なのでしょうか。
やはり物価上昇と等しく、値段が上がるのですから…あまり利用は避けたいというのがユーザーの本音であり、数字にも顕著に出るもの。それが資本主義経済の定めと言えましょう。
しかしながらタクシー業界の現場の方々の界隈でも、タクシーニュースを随筆する方々の界隈でも意外ともいえる結果が出ているのです。
現場の声
先日ですが、私たちは東京都内のタクシー会社を取材しました。
こちらは創業70年の老舗タクシー事業者で、コロナ禍前の2019年でも年間でもトップクラスの売上を誇りながらも、仕事のしやすさ、定着度が自慢のタクシー会社です。
意外に影響少ない?
タクシー初乗り運賃が420円から500円に改定された2022年11月14日から1カ月あまり。
コロナ禍でタクシー利用の一時的な悪化を気にタクシー事業者の経営環境の悪化が目立つ中、まさに「追い打ちをかけるか如く」のタクシー初乗り運賃値上げで、さぞタクシー利用は敬遠するであろうと思われたユーザー心理ですが、実は以外にも影響が少ないことが発覚!
それどころかタクシー事業者の間では『売上が過去最高になった』という声まで挙がってきてるから驚きです。にわかに信じがたい事実だと思いませんか?
“過去最高の売上”って本当?
しれーっと言いましたが『売上が過去最高』という事実、冷静に考えてあり得るのでしょうか。
まだコロナ禍は完全に収束とは言えないご時世、さらにタクシー初乗り運賃値上げという、とかくマイナスイメージがつきまとうニュース…それでも過去最高の売上を誇るからすごいですよね。
その理由について、タクシー会社の部長さんはこう話しています。
『11/14に初乗り運賃が改定されてから上がった。以前は日車営収(一日の売上)10万円を超えるタクシードライバーは年に数人いる程度だったが、今は10万円超えのタクシードライバーがしょっちゅう出ている。こんなの初めてです。
当社は締日の関係で11月18日~12月17日までをカウントしてますが、この月間でも過去最高を記録している。10万円をこの月は普通超えないのに…。毎日のように4~5人も輩出しているし、多いときは10人も売り上げて帰ってくる。
これから先12月18日以降も当然忙しいでしょうね。忘年会やクリスマス、御用納めなどありますから。』
確かにこのような売上の上昇は今までなかった事態であり、様々な要因が考えられるのは間違いないでしょう。
一日売上平均がなんと6万円に!
東京都特別区・武三交通圏の日車営収(一日の売上)平均は4万9,777円(2022年6月)。
これでもコロナ禍の前年同月との比較すると、40.1%増となっております。(東京ハイヤー・タクシー協会集計)
そんな中こちらの会社では初乗り運賃改定後の日車営収(一日の売上)が、なんと6万円台を超えており、タクシー業界でも売上がピークを迎えると言われる12月前の11月26日時点(2022年度)の平均営収が…7万4,558円というとてつもない数字を叩きだしました。
しかも驚いたことに1日の平均配車回数(営業回数)は34~35回と、さほど改定前から変化がないと言います。
12月平均でも5万円台だった
11月で日車営収平均が7万円を超えるという過去最高を記録したこのタクシー会社で、コロナ前の過去統計(2019年~2017年の12月)の平均データを拝見させていただくことができました。
すると、2017年の日車営収平均は5.3万円、2018年の日車営収平均は5.4万、2019年の日車営収平均は5.7万という内容でした。
年末の御用納め日でようやく6万8千円台に到達するかどうかというのが『通年の平均』なだけに、今回の11月で7万円台を達成する日があるというのはものすごいことなのです。
そんなに上がっているのはなぜ??
では、なぜそんなに日車営収(一日の売上)平均が上がったのでしょうか?
答えはもちろん『タクシー初乗り運賃改定』なのですが、もう少し内訳をお話ししましょう。
改定しても変わらないタクシー利用
この“運賃改定”を行ったところ、普段と変わらないお客様の利用が継続しているためにタクシードライバー皆さんの売上が増えたのです。
一日の売上を無理なく営業して6~7万円。さらに10万円を達成するドライバーも以前は数人いるかどうかだったのが4~5人が常に。多いときは10人も居るというのですから驚きです。
そうなるとタクシードライバーの平均歩率は50~60%付近と見積もっても月のお給料が80万円前後のタクシードライバーがたくさん出てきているという事になる訳です。
これには取材した私たちも驚きでしたし、何より現場担当者の方も「こんな事は初めて…」とさらに驚かれていたのが印象的でした。
「メーターがすごい上がる」印象
「普段と変わらないお客様の利用があるのに売上が増えている」つまりこれは、利用客は減少していないということが顕著に表れているのではないでしょうか。
物価上昇でもお構いなしと言った感じですよね。
やはり、タクシーという公共交通機関は無くてはならない乗りものなのです。
それを証拠に現場のタクシードライバーからもこんな声が上がっています。
運賃改定後は…80円だったものが100円になった訳なのでつまり距離が伸びて“メーターがすごい上がる”という印象です。それでも今までと変わらず乗車はして頂いていますし、お客様の利用が減らないということは、「初乗り運賃改定に理解を示して頂いてくれている」のではないかと考えています。
業務提携とアプリの恩恵
今回取材したタクシー会社は、大手タクシー無線「東京無線」所属の事業者になります。
東京無線は、2021年4月1日にチェッカーキャブと業務提携を開始。
以降、東京都内91社6500台あまりを有する都内最大規模のタクシーカンパニーとなりました。
双方のタクシーチケットの利用が可能であったり、今まで以上にお客様が利用しやすく、捕まりやすいタクシーとして進化をしていきます。
さらにタクシーアプリ最大手『GO』にも加盟しているため、迅速なタクシー配車に対応。
そういった恩恵もあってお客様からの満足度だけでなく、タクシードライバーの売上向上に大きく繋がっております。
タクシードライバーへ転職を希望する方へ
コロナ禍でタクシードライバーというお仕事が成立するんだろうか。大丈夫な業界なのだろうか…。
そう不安になる方も多いと思います。しかしイメージや偏りのメディアに翻弄されてはいけません。
ここでは実際に今、タクシードライバーというお仕事がどれだけオイシイお仕事で、やりがいがあり、ワークライフバランスを充実させたり、或いは収入を前職以上に稼ぐことができたりと…頑張り次第で可能性が広がるチャンスに満ちた職業であるかを是非この機会に知って頂きたいと思います。
実は運賃改定はチャンス
この運賃改定は、何度も言うように決してマイナスなことではなく、理にかなった事だったという事をとどめておきましょう。
確かにユーザーにとっては利用時の運賃が以前より上昇する訳ですから、耳の痛い話であることには間違いないでしょう。
しかし、この運賃改定によって現場ではコストが高騰した分の補填や乗務員の待遇改善が期待されています。
現在、運賃改定は同様な理由で東京都内だけでなく他地区でも多くが改定もしくは改定の動きを見せています。タクシー業界としては物価上昇の中で値上げに対する抵抗感が消費者の中で薄れつつあるため、今が改定のチャンスだったという声もあるほどです。
キャッシュレス化も後押し
タクシードライバーの声を聴くと、やはり今運賃を支払うお客様の中で多いのが「現金を出さなくなった」という内容でした。
その場で現金を払う方も減り、キャッシュレス決済が増加。カード決済やic乗車券、バーコード、QRといった内容です。現場の担当者も日報や売上を見るに「お客様側も利便性が良くて支払ったという感覚がないのでは?」と仰るほどです。
また、当然ながら現金で決済するお客様もいらっしゃるのですが、運賃改定前を振り返ると…お客様の心理として初乗り740円時代を除き、『1.052km420円』の時は「まいっか」という感覚。『1.096㎞500円』となった今は「ワンコインで利用しやすい」というところでしょうか。
いずれにしても運賃改定に理解を示して頂いているというのはありがたいことですね。
ドライバー不足によって●●が上昇!
コロナ禍でタクシードライバーは一時的に不足したことはありました。
もちろんそれは今でも言えますし、タクシー業界というのはマクロの視点で見ると人手は不足している業界と言われています。(現実は事業者各社によって異なります。)
しかしながら今、規制緩和やアプリ配車向上、タクシー売上復活など、様々な要因が拍車をかけており、タクシードライバーの不足という懸念材料が返って1人当たりの売上単価の上昇につながっています。
皮肉といえば返す言葉もありませんが、それだけ稼げるチャンスが例年になく、どの業界になくつかみやすいのです!
タクシー乗務員(ドライバー)として働くなら今!
タクシードライバーとして働くのであれば、まさに今は絶好のチャンスです!
運賃改定によってタクシードライバー待遇改善とコスト高騰部分の補填が期待され、さらになんといっても客足が復活したことが大きいでしょう。
営業収入も飛躍的にアップしており、運賃改定だけでなく「タクシー配車アプリ」の恩恵もあり以前に比べ営業もより行いやすくなりました。
ライフスタイル重視で働くもよし!ガッツリ稼いで頑張るもよし!
実はタクシードライバーのお仕事は自分らしく働くことが出来るあまり知られていないレアな職業です。是非転職・再就職をお考えの際はタクシードライバーを検討してみてはどうでしょうか?