さかのぼること2年前の2020年。
「コロナ禍」・「東京オリンピック・パラリンピック延期」という未曾有の混乱下で行われた通常国会で、『道路交通法の一部を改正する法律(令和二年法律第四十二号)』が成立しました。
この中には「二種免許の取得に関して、条件が大幅に緩和」「施行日は公布日から2年を超えない範囲」というものが盛り込まれています。
あれから2年、いよいよその時(施行)が来ました。
人材不足に悩むタクシー業界への追い風になるか、期待が高まります。
見出し
二種免許新制度いよいよ施行!タクシー業界への追い風なるか
政府は内閣府令「道路交通法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(政令第15号)」として2022年5月13日に正式施行されることが決定しました。
成立から約2年。ついに本格的に実現します。
現行の制度を振り返る
我が国の普通免許は、高校卒業、或いは早い方は在学中に自動車学校(俗にいう「教習所」)へ行き、仮免許を取得したのち、無事卒業すれば、実技を免除→運転免許センターにて学科試験を受講し、合格すれば晴れて運転免許を取得となります。
現行の制度ではその「普通自動車免許取得」から3年後…早い方では21歳の方から「第二種免許」を取得することが可能となっております。
▼第二種免許の取得資格(2022年4月現在)
年齢:満21歳以上
視力:両眼で0.8以上、片眼がそれぞれ0.5以上(眼鏡、コンタクト可)
色彩識別能力:信号機の赤、青、黄色が識別できること
深視力:三桿法を使った深視力検査でその誤差が平均2㎝以下であること
聴力:10メートルの距離で90デシベルの警音器の音が聞こえること
運動能力:運転に支障をきたす身体の障害がないこと
つまり、どんなに慌てふためいても、普通自動車免許取得から3年以上経過していないと「二種免許」の取得資格は得られないという訳なのです。
二種免許の緩和内容
この度の道路交通法改定で「普通自動車免許取得後3年経過後」「最低21歳以上」という定説が、覆ることになりそうです…いや、なります。
二種免許の取得条件は「19歳以上かつ、普通自動車免許等の取得後期間が通算1年以上」に大きく緩和されます。
単純に、18歳で免許を取得したら1年後には二種免許を取得できる資格を有するという事になります。
これは大型二種免許も同様ですので、バスの運転手を目指す場合でも大きな緩和となります。
なお、緑ナンバーとは関係ありませんが、「中型免許」「大型免許」も同様に「普通自動車免許等の取得後期間が通算1年以上で取得(受験)資格を有する」とのことです。
規制に踏み切った経緯
タクシーは、ぱっと見では一般の乗用車と形は変わりません。
しかし大きく違うのは、お客様が料金を支払い、目的地まで乗車されること。
つまりオーバーに表現しても「数分~数十分のご乗車されている間は人命を預かっている」ことには変わりません。
そんな中で行政としても、タクシードライバーとして仕事をする際ある程度の「運転経験年数が必要」という見解には当然なります。
ですので、二種免許取得時には「3年間以上の免許取得期間」という必須条件を設けているのです。
お客様を乗せている以上、安全第一に努めなければならないので、バスもタクシーも普通自動車免許を取得後すぐに実現(転職)できるお仕事ではないのです。
しかし、この3年間という「運転経験年数」が返って人材のハードルが高くなっており、比較的シニア層でもチャレンジができる仕事ではあるものの、タクシードライバーへの転職を検討する求職者の方にとっては少々懸念材料ではありました。
そのため、未来の交通業界の人材を増やすため、規制の緩和に踏み切ったというわけです。
そもそも免許保有率って?
運転免許の保有率というのをご存じでしょうか?
20代(29歳以下)の運転免許保有率は20代の人口に比べて約8割が取得しているのが現状。(警察庁:運転免許統計2019年)
さらに、50%未満が「18歳で運転免許を取得」しています。
主な理由として「仕事で使う事があるかもしれない」「免許の取得は当たり前」「レンタカーでたまに運転」「身分を証明できるものとして」など、「車を買って運転する」という理由は以外と少ないのは驚きです。
「クルマ離れ」と「免許取得」は比例しない
よく「若者のクルマ離れ~」なんて耳にしますよね。
以前に比べ自動車が高額で手を出せなかったり、或いは自動車に興味がさして湧かないこともあり(都心部は公共交通機関が充実している)、軒並み自動車の売上も減少気味。
※但し『保有率』に関しては買い替えなどもあり商用車と乗用車と比べると平均して8,000万台付近をキープしているのが現状です。
ですが、自動車の購買や保有に比例して運転免許の保有率は高水準をキープしているのですから、あとは条件さえ揃えばタクシー会社で研修と経験を重ねていけば、若いうちに立派なタクシードライバーへと成長できるチャンスがあるということです。
タクシー業界に及ぼす影響
今回の道路交通法の新制度によって、二種免許の規制緩和、受験資格見直しを検討することにより、交通業界の安全性の担保がより高く求められます。
この先のタクシー業界に及ぼす影響はどのようなものなのでしょうか。
就職の受け皿拡大へ
まず第一には、「就職の受け皿」が拡大されることでしょう。
今までのタクシー会社ですと未経験養成で入社される場合、二種免許の必須条件として『普通自動車免許、準中型自動車免許、中型自動車免許、大型自動車免許、大型特殊自動車免許のいずれかの一種免許を取得してから3年以上が経過』というものが、今回の新制度施行により『1年以上』に緩和されるのです。
免許取得年数や、運転経験年数、年齢で諦めていた方にとっては大きく前進できる内容となります。
就職説明会が幅広く→高卒新卒も?
今までのタクシーは中途採用が9割以上。
そして、大手日本交通や国際自動車などではここ数年で新卒採用を積極的に行っており、近年では日本交通が新卒専用のタクシー営業所を開設(日本交通葛西営業所)したりと、フレッシュな人材の採用強化を図っております。
しかし、大卒時点では21歳~22歳。最短18歳で普通自動車免許を取得していれば現行の制度で3年経過で辻褄が合う形ですが、新制度施行になれば最短19歳での二種免許取得が可能になります。
そうなると、短大生・専門学生、或いは高校生にも就職の視野が広がります。
タクシー業界目線にはなりますが、新制度施行により『今まで目を向けられなかった場所へのアプローチが可能』になり、タクシードライバー人材もまた、そこから生まれることが可能となります。
運転経歴は必須
新制度施行でタクシードライバーを目指す方は、二種免許を取得する条件が「普通自動車免許取得3年以上」から「1年以上」になりました。
上述したように、タクシー会社各社ではその分、安全面を今まで以上に遵守しなければいけない点は、言うまでもありません。
以前はタクシードライバーへ転職を目指す方の中には、二種免許の取得資格は充分あるものの「ペーパードライバーに近い経歴」という方もいらっしゃいました。
そういうケースですと、「各会社の判断」にもなりますが、まず面接でお会いして→採用担当者同乗の下、運転テストを行う→選考→合否という形になります。(企業によっては面接前でお断りしている場合もあります。)
タクシーは職業柄お客様がご乗車します。
そのため、人事採用担側としても面接で『運転面に不安のある場合』はある程度の部分ではありますが、拝見をせていただく場合があります。
※過去に何名か運転経験の少ない方からの転職相談があり、その後面接をされましたが、ほとんどの人は問題ありませんでした。
(逆に問題のあった方は急ブレーキ、急発進の連続で公道に入る前にストップがかかったことはあります。)
ですが、今回は年数が縮まったことにより、該当する求職者の方は運転経歴を非常に厳しくチェックされる可能性があることだけはご了承いただきたいと思います。
個人タクシーの条件は?
今後気になるのは個人タクシーの制度です。
個人タクシーは現状、法人タクシーの経験10年以上(無事故・無違反)、満35歳以上というのが現行の個人タクシー事業者になる条件ですが、今後この新制度施行によって変更になる可能性は充分あります。
法人タクシーに比べ総合的に自由度が高い分、稼げるかどうかは営業力にかかってくるのが個人タクシー事業者の醍醐味です。
新制度施行によって将来的に若年層のタクシードライバーへ向けて新しい生活スタイルの提案を含めたキャリアアップの流れを業界全体で形成することが出来たらいいですよね。
他業種の一種・二種
ここでちょっとアイスブレイク的な小噺を。
一種…二種…今まで自動車の運転免許のお話をしてきました。
「規制の緩和」という法が動く一大事ですよね。
さて、実は他業種にも「一種免許」「二種免許」というものがあります。
国家資格には同じ免許でも様々な種別があるのをご存じでしょうか。
あまり関係ない話ではあるかもしれませんが、ご紹介する資格を有した方がタクシードライバーに転職したという異色のキャリアをお持ちの方も、過去に本当にいらっしゃいます。
特にメジャーな、身近なものをご紹介します。
電気工事士
ちなみに電気工事士の場合は『一種免許:工場やビル等の大きな電気設備』、『二種免許:住宅や小規模な店舗等の電気設備』が主な内容です。
主に区別としては「工事ができる範囲に違いがある」とのことで、第一種は公共施設に特化しているケースが多く、『事業用電気工作物で最大電力500キロワット未満の需要設備』で工事が可能な資格です。
第二種は冷蔵庫・洗濯機・エアコンなど、いわゆる白物家電と言われる『一般用電気工作物』で工事が可能な資格です。
過去に電気工事士の一種・二種両方を所持していた“接遇ほぼ未経験の技術屋さん”の方が、都内のタクシードライバーとしてデビューした事がありました。
とかくサービス業や営業などの仕事を培ってきた方のほうが有利と思われがちなタクシー業界ですが、この方は30年以上技術畑で過ごしてきたことによって、細部までしっかりと見極めてこだわりを持つ判断力を身に着けておりました。
配属のタクシー会社の採用担当者様から「うれしい誤算」と言われるほど自社のトップクラスに入る成績を収めているとのことです。
教員免許も
青春時代にあらゆる意味でお世話になったでありましょう先生(教員)にも実は、「一種・二種」といった免許があります。
「教員免許」の場合は『一種免許:4年制大学卒業相当、二種免許:短期大学卒業相当になります。(校長などの管理職となる場合は「一種免許」或いは大学院卒業相当の資格を有する「専修免許」が必須となります。
(※余談ですが二種免許保持者が一定の実務期間経過後に大学等において所定の単位を修得したのち、教育職員検定に合格すると、一種免許を取得することができます。)
過去にいらっしゃった求職者の方で職歴が教員という方…実は以外といらっしゃいました。
共通点は「真面目」「貪欲」この二点でしたので、タクシー会社の現場担当者からも入社後に成績のみならず勤務態度含め非常に評判がよい印象です。
タクシードライバーへ転職されたの多くは「仕事をすればした分だけ、頑張った分だけ給料に反映される」という点に魅力を感じ、ご自身の生活スタイルを鑑みてキャリアチェンジを図った方がほとんどです。
今こそタクシー業界へ
「未経験歓迎!」「学歴不問」…いわゆるパワーワードが多いタクシーの求人募集ですが、もちろんそれらは魅力的な内容であることは間違いありません。
但し、何度も言うように「二種免許を取得する」というハードルがあり、条件に満たしておらず諦めざるを得ないという方も多かったのも事実。
特に免許を取り立ての若い方も例外ではありません。
道路交通法が改正され、5月13日より新制度が施行になると二種免許の取得資格が大きく緩和されます。
運転免許を取得して間もなく1年が経過しようとしている皆さんも、そして高校生や短大生・専門学校生の皆さんも、タクシードライバーという「やってみたら意外と面白い!ワークライフバランスの取れる仕事」にチャレンジすることができます。
入社後費用負担なしで取得可能
タクシー業界へチャレンジしようとしている方は、二種免許を「入社までに取得してきてください」というのが、この業界の暗黙のルールと思われているかもしれません。
確かにタクシードライバーという仕事は「個人事業主」的な感覚があります。
半ばフルコミッション的な要素があり(正式にはフルコミッションではありませんが)、自分でしっかりと予定を組み立てて稼ぐわけです。
しかし法人タクシー会社に配属されている「社員」ですので「業務委託」などではありません。
実はタクシー会社では、ほとんどの会社で「二種免許費用負担」という制度を設けております。
ですので、入社時に二種免許の費用(通常20万円前後発生)を心配する必要性がないという事になります。
また、ほとんどの会社は二種免許取得期間の日数は研修費用として日当が発生しますので、安心して教習を受けることが可能です。(※条件はあります)
二種免許取得の場合、教習所は通勤もしくは合宿いずれかになりますが、タクシー会社によって変動がありますのでご了承ください。
これから~Opinion~
交通業界のみならず自動車業界も踏まえて大きな転換点となる時がやってきました。
道路交通法の改正で、人材不足に悩むタクシー業界への一筋の光と期待が高まる一方で、懸念すべき点はいくつも出てきます。
一番は「安全面」に違いありません。3年間の運転経験でなく、1年への短縮は、人によって運転経験の濃度が違います。そうした中で、二種免許の意味を考え、タクシー会社は1年経過の方は別枠の養成制度を設けてみてはと考えます。
研修期間の日数、研修内容の強化など…社内でもプラスアルファで乗務の教習を濃密に行うなどして安全面の強化を図ることが、安全性・信頼への大きなステップにもつながることでしょう。
もともと3年だった時間です。仮に1年取得でプラス少々の肉付けとなる研修を入れてタクシードライバーデビューをしても、決して遅くはないはずです。
つまりそれは現場内でも「改正前の二種取得者(3年)」「改正後の二種取得者(1年)」とのいざこざ防止にもつながるのではないでしょうか。
いよいよ5月13日、二種免許取得の規制が大きく緩和される日がやってきます。
数年後、「当たり前」になる制度となるためにも、タクシー業界全体で「安全面の強化」を図っていきましょう。