タクシーが国内の公共交通機関として活躍し続けて100年余り。
世界恐慌・戦後の混乱、高度度経済成長期、バブル、リーマンショック…激動の時代を乗り越えてもなお、コロナ禍で混沌する2022年も街には相も変わらずタクシーが走り続けています。
本日はそんなタクシー業界の一時代を築き上げた「ビッグボス」的存在が勇退されるニュースです。
見出し
タクシー第一交通、100歳創業者会長が退任
タクシー最大手「第一交通産業(本社:北九州市)」は、4月6日の会見で黒土始(くろつち・はじめ:以下、黒土会長)代表取締役創業者会長がこの度、会長職を退くことを発表しました。
黒土会長は地元九州の大分県中津市出身。今年の1月で100歳を迎えましたが、「えらい人生短いなと思った」と黒土会長が話しすとおり、あっという間に第一交通を全国区のタクシー会社へと作り上げました。
黒土会長は1981年に紺綬褒章、1983年に藍綬褒章、1992年勲四等瑞宝章、2013年勲三等旭日中綬章、2018年には再び紺綬褒章を受章しており、天皇陛下から授与される褒章や勲章を数多く時代の節目において評価され、高い評価を得ている人物であることが伺い知れます。
6月の株主総会で正式に取締役を退任し、第一交通内で「相談役」のポジションに就く予定です。
今後は中小企業を支援するため、一般財団法人を設立するとのことです。
なお、健康の秘訣を尋ねると「暴飲暴食をしない、毎日10分~20分の運動をする」と豪語するように、健康そのものです。
黒土会長は現在でもほぼ毎日、会社に出勤し、取締役会(オンライン)にもほとんど出席しているとのことです。
まだまだアクティブで頭が下がります。
創業は1960年
タクシー最大手「第一交通産業」は、誰もがご存じのタクシー会社です。
街を歩けば一度ならず、何度かは「第一」の行灯を目にしたことはあるのではないでしょうか?
黒土会長が第一交通産業を創業したのは62年前の1960年にさかのぼります。
前身の「第一タクシー有限会社」を北九州小倉で創業させ、わずか5台から営業をスタート。
東京オリンピックが開催される1964年には不動産業にも進出します。(旧:第一通産株式会社)
創業から今日まで、一代でタクシー事業に限らず、バス事業・不動産など多岐にわたるサービスを展開する公共事業主のリーディングカンパニーと言えましょう。
各地でM&A~全国トップへ
第一交通産業は、バブル経済の波が押し寄せる1980年代頃から全国各地でM&Aを行い経営を拡大。
「タクシー需要=景気に左右されない」という礎を見抜き、全国に「第一交通」のブランドを浸透させていきます。
例えばよくある話で 「仕事で上京してきても『第一交通』のタクシーを見かけると、実家でも『第一交通』のタクシー走っている事もあってホッとするお客様も多くいらっしゃるようですよ。
1993年には現在の商号「第一交通産業株式会社」に変更しました。
現在では、全国8332台の保有台数と34都道府県で115社、209営業所の事業所を展開するマンモス企業となり、文字通り全国トップのタクシー事業者となっております。
地元企業多数の福証上場
また第一交通産業は2000年4月26日、地元福岡県の福岡証券取引所(福証)に上場を果たしております。(証券コード:9035)
国内の証券取引所はかの有名な「東京証券取引所(東証)」だけでなく、実は「名古屋(名証)」「大阪(大証)」「福岡(福証)」にも点在しております。
福岡証券取引所の2021年現在、上場銘柄は107社あり、うち単独上場銘柄は25社のみ。
ほとんどが地元九州の企業です。
食品は棒ラーメンでおなじみの「マルタイ」や、めんつゆの「ヒガシマル」、地銀は「福岡中央銀行」をはじめ5社。
その他、九州の人で知らない人はいないであろうファミリーレストラン「ジョイフル」、西日本エリア唯一の認定放送事業者「RKB毎日ホールディングス」といった地元大手企業が軒を連ねる中で堂々老舗として君臨し、公開を行っているのが「第一交通産業」です。
地元小倉に「第一交通産業記念館」も
第一交通産業の地元小倉市には、第一交通の歴史や業績などを展示した「第一交通産業産業記念館」という博物館があります。
全国でこういった大手タクシー事業者の博物館は初めてのケースとなります。
■第一交通産業産業記念館
〒802-0042
福岡県北九州市小倉北区足立2丁目7-17
電話:093-511-8811(第一交通産業総務部)
年中無休 10:00~17:00
入場無料
施設はなんと黒土会長の私邸内に建設されており、第一交通産業の歴史をはじめ、黒土会長の経営理念、1980年代から着手した事業拡大への歩みなどを、約200枚のパネルで展示されております。
第一交通産業の関係者は「学生の社会学習や、観光に活用していだだきたい」とのことですが、社内教育の場として恰好の教科書が揃う場所であることは間違いないでしょう。
全国で名を馳せるタクシー最大手「第一交通」
第一交通産業では、快適=アメニティを求めて時代のニーズに合った営業を行っているだけではなく、未来を見据えたビジョンを明確なものにして、変貌著しい明日の日本の交通網を支え続けています。
タクシー事業だけじゃない
第一交通産業は、タクシー事業者であると同時、多方面で事業を展開している商社であるということをご存じでしょうか?
ブランド力・バックホーンというものは働く上ではウエイトを占めているのは間違いありません。
そんな中で第一交通では、「バス事業(現在では沖縄県那覇市)」、「不動産事業」、「那覇バスターミナル」、「パーキング事業」、「ファイナンス事業」、「自動車販売・整備事業」、「介護事業」、「医療事業」、「スポーツ事業」、「ソフト開発・情報通信事業」などと、公共交通機関だけでなく、様々な分野にすそ野を広げており、社会への貢献を第一に担う企業として邁進しております。
コロナ収束後を見据えた採用強化も
2020年から始まった新型コロナウイルスの猛威は依然として続いており、感染者の波は上昇下降を繰り返しております。
「新型コロナウイルスとどう向き合うべきか」という課題は、経営者によって大きく変わるとは思いますが、第一交通では早い段階から「コロナ収束後を見据えた採用強化」を行い、地元福岡県を中心に積極採用に取り組んでおります。
第一交通のタクシー事業は、他社同様にコロナ禍では非常に苦しい状況に立たされました。
しかしながら地域密着という信頼が強みになり、感染拡大後も「ドアツードアのタクシーなら移動は安全」という考えに拍車がかかり、2020年の10月の収支は黒字転換になっています。
これから~Opinion~
黒土会長の人生訓に「努力は天才に勝る」というものがありました。
これは黒土会長の母からの教えだそうですが、才能だけではない、コツコツと努力を重ねたからこそ今日まで第一交通産業が日本のタクシー業界に深く長く、君臨し続けている理由なのでありましょう。
御年100歳を迎えてもなお、経営の最前線に足を運びアクティブに動き回る姿は多くの社員の模範となっただけでなく、タクシー業界の生き字引とも言えます。
会長職は退かれますが、激動の時代をタクシー事業を通じて乗り越え、日本の交通網の発展に大きく貢献した手腕は交通業界の宝には変わりありません。
今後もたくさんのお知恵をタクシー事業者の垣根を越えて教えて頂きたいものです。