タクシーには、会社が運営している「法人タクシー」と会社に所属せずに個人でタクシードライバーとして働く「個人タクシー」の2種類があります。
今回はそのうちの一つである個人タクシーを始めるに当たって必要となる資格や開業する際に必要となる各種条件と、法人ではなく個人で働く事により得られるメリットをご紹介します。
この記事は2022年2月に更新されました。
・個人タクシーとは(2022年2月)
・法人タクシーとは(2022年2月)
・個人・法人問わずタクシーを始めるために必須な資格(2022年2月)
・個人タクシーでも配車センターから配車される?(2022年2月)
見出し
個人タクシーとは
街中で見かけるタクシーの中で全国共通「個人」と書かれた行灯の車両…それが個人タクシーです。
一般的には「許可を受けた個人のタクシードライバーのみが1台の車両を使用して旅客を運送できるタクシー事業を指します。
歴史を紐解くと、昭和34年に個人タクシーは誕生。
正式には戦前にも営業形態として存在していたそうですが、戦時中から戦後は政府から承認が得られず、個人でのタクシー事業は展開することができませんでした。
昭和30年代、高度経済成長期に入るとタクシードライバーの多くが過酷なノルマを達成するため、荒い運転を繰り返したり、無許可の旅客運送行為「白タク」を行う者も現れ、輸送の安全が危ぶまれる事態になっていました。
このような背景に危機感を持った当時の運輸省(現:国土交通省)が問題解決に向け「タクシーの個人事業への道を開く」ことを決定し昭和34年12月、個人タクシーが正式に誕生しました。
大きなメリットとして「100%営業収入が売上(成果)に反映される」、「休日・休暇が自由」、「マイペースで営業を進められる」「やる気次第ではビジネスチャンス」といった点が挙げられます。
法人タクシーと同じ営業スタイルを主としていますが、中には「お抱え」のお客様を持っていらっしゃるケースも多く、官公庁の建物周辺は夜になると個人タクシーが多く停車しており、固定のお客様が予約で乗車されるということが珍しくありません。
個人タクシーの特徴として、車内の内装も基本的には自由ですので、ジャズを流したり、お客様におしぼりを渡したりと、お客様がくつろげる「ツボ」を抑えている営業を心得ている方が売上を上げている方の中には目立ちます。
令和元年時点での統計では、個人タクシー事業者数/台数は全国で31,150台となっております。
法人タクシーとは
逆に法人タクシーは、事業者が、1名以上の運転者を使用し複数台のタクシー車両を用いて経営する形態を指します。
いわゆる「タクシー会社に属する」という形です。
当然ながら勤務形態、営業所、給与形態、歩率も各タクシー事業者によって決まっております。
令和元年時点での統計では、法人タクシー事業者数は全国で5,980社となっており、車両台数は181,900台となっております。
個人・法人問わずタクシーを始めるために必須な資格
タクシー運転手として勤務する場合、無くてはならない資格として二種免許を所持している事が必須の条件です。当然、個人タクシーとして始める場合にも二種免許が必須となります。
また、東京や大阪といった大都市圏内の場合は地理試験にも合格していなければなりません。こういった試練を乗り越える事で初めてタクシーの運転手としての人生をスタートする事が出来るのです。
上記の事をクリアすれば、法人のタクシーとしては始める事が出来ますが、個人として始めるには資格があるだけではいけません。資格以外に必要な物も合わせてご紹介します。
新規許可
新規許可は、個人タクシーの営業区域ごとに、管轄の地方運輸局において『申請時期』・『試験日』・『処分時期』を公表して行っています。
新規に許可を受けようとする場合には、あらかじめ許可を受けようとする営業区域を管轄する地方運輸局に詳細を確認するとよいでしょう。
譲渡譲受
譲渡譲受とは、現在個人タクシーの免許を受けている事業者から、事業の譲渡を受ける制度です。
現在の個人タクシー事業者=譲渡人と、個人タクシーを開業したい人=譲受人の双方で、「譲渡譲受契約」を結んだのち、 認可を受けようとする営業区域を管轄する地方運輸局に譲渡譲受認可申請を提出しなければなりません。
また、譲渡人の紹介が受けられるという点から、譲渡譲受で個人タクシーを開業を目指す方のほとんどが組合に所属されています。
必要条件
個人タクシーを開業するにあたり、「新規許可」も「譲渡譲受」いずれも共通で必要な条件があります。
- 申請日現在で65歳未満であること。
- 第二種運転免許を有すること。
- 申請日以前、申請する営業区域において、自動車の運転を専ら職業とした期間が10年以上あること。【運転経歴】
- 申請日以前5年間及び申請日以降に、法令違反等(運転免許取消・刑法の違反等)の処分を受けていないこと。【違反】
申請日以前3年間及び申請日以降に、道路交通法違反がなく、運転免許の効力の停止を受けていないこと。【違反】 - 許可を受けようとする営業区域を管轄する地方運輸局長が実施する、法令および地理の試験に合格した者であること。【知識/試験】
- 開業等資金、営業所、車庫があること等、許可を受けようとする営業区域を管轄する地方運輸局より公示された全ての基準を満たすこと。【その他】
以上が個人タクシーの資格条件になります。
つまり、個人タクシーはタクシードライバーになろうと思った矢先「すぐさまなれる仕事」という訳ではないのです。あくまで「タクシードライバーとしての経験」が絶対条件なのです。
また、個人タクシーを始めるためには、旅客運送に携わった運転経験に関する規定をクリアする必要があります。
この規定は年齢により異なり、開業を目指す年齢によって違いがあるので注意が必要です。
個人で始めていきたいと思うのであれば、最初は法人のタクシードライバーとして勤務して経験を積み、開業申請をし、独立していく流れが無難でしょう。
35歳未満
タクシードライバーの最年少は21歳と考えて間違いないでしょう。
なぜならば、日本では18歳で運転免許を取得可能となっており、タクシー営業で必須な「第二種運転免許」は運転免許取得後3年経過が絶対条件となります。
そのため、例えば21歳で法人タクシー会社に入社した方が個人タクシーの条件をクリアしたとするならば、10年後、31歳となっているはずです。
個人タクシーの申請を行う時点で35歳未満であった場合は、申請日以前に、営業区域内の同一のタクシーまたはハイヤー事業者に10年以上継続して雇用されいた経験が必要となってきます。
さらに申請日以前10年間無事故無違反も必須条件となります。
最低でも個人タクシーを開業するのであれば、31歳からというのが条件的には正しいでしょう。
35歳~40歳
35歳~40歳未満の場合は、個人タクシーの申請をしようとする営業区域内で、自動車の運転を仕事としていた期間(タクシーに限らず)が10年以上経験していることが必須です。
また、運転経歴ですが、タクシーやハイヤーとしての運転経験が5年以上、かつ3年以上継続での勤務経験も必須になります。
ちなみに法人タクシーでは近年、大手タクシー事業者を中心に新卒採用が増加傾向にあり、平均年齢が平成29年から令和元年までの3年連続で低下しております(57.9歳)。
また、新規講習修了者(タクシードライバーを希望する人が受講する最初の講習)の平均年齢も、令和2年10月では39.5歳となり、初めて30歳代に低下。これは平成3年の統計開始以降初めてのことでした。
個人タクシーも「年配の方が営業している」というイメージも多いかもしれませんが、30代後半~40代の脂の乗った世代の方がハンドルを握って、常連客をお抱えてビジネス感覚でお仕事をされてる方もいらっしゃいますよ。
40歳~65歳未満
40歳~65歳未満の方が個人タクシーを開業するには、申請日以前の25年間で自動車の運転を仕事としていた期間が10年以上が必須条件です。
また、個人タクシーの申請をしようとする営業区域内で、タクシーやハイヤーの運転を職業としていた期間が申請日以前の3年以内に2年以上であることも必須条件です。
個人タクシーの平均年齢は年々上がっており、東京都内であれば、令和元年は64.2歳というのが現状です。
そういった方は法人での経験が長い方もいらっしゃれば、お若い段階で個人タクシーの道に進んだ方も多く、営業のコツを心得ている「達人」が多いのも事実です。
また、65歳以上の場合は個人タクシーの開業申請自体が出来なくなってしまうので注意が必要です。
筆記試験
二種免許の試験、そして地理試験…大変な思いをしてタクシードライバーとしてデビューしました。
そして10年法人タクシーで勤務し無事故無違反、さぁ個人タクシーを開業!…とすんなり行けばよいですが、実は個人タクシーを開業する際にも試験があります。
個人タクシーは法令と地理の試験があり、1回の出願で受験で1度きり…つまり再試験がありません。
試験内容は以下の通りです。
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法令試験は45問→41問以上正解しなくてはいけない。
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地理試験は30問→27問正以上正解しなくてはいけない。
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試験内容は選択制または〇×がほとんど
ただし、地理試験に関しては、以下の内容をクリアしていれば免除になります。
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申請しようとする営業区域内で申請日以前継続して10年以上タクシーまたはハイヤー事業者に雇用され、申請日以前5年間無事故無違反であること。
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申請日以前継続して15年以上タクシーやハイヤー事業者に雇用されていること(無事故/無違反問わず)。
個人タクシーへの道は、『経験がモノを言う』と言っても過言ではありません。
また、不安な方は各地域の個人タクシー協同組合で、個人タクシーの試験向けの勉強会が実施されていますので問い合わせてみるのもよいでしょう。
必要資金
独立して事業をする際、どうしても「資金」という部分は避けて通れません。
個人タクシーで営業をする際には、果たして必要資金はどれくらいあればよいのでしょうか。
まず、最初に考えなくてはいけないのは「車」です。
タクシー車両もご自身で購入します。
新車から中古車まで値段は広いので200万~400万円くらいを目安に考えていたほうが良いでしょう。
プラスして、車庫・自賠責保険・任意保険・設備資金(概ね80万円以上)、運転資金(概ね80万円以上)が必須になってきます。(自動車以外の開業資金は概ね200万円付近)
以上のことからゼロから個人タクシーを開業となると総合して400万~500万円前後はかかると考えたほうが無難です。
個人タクシーを始める事で得られる金銭的メリット
タクシー業界の給与体系は個人の裁量に左右される歩合制です。この給与体制は個人であろうと法人であろうと変わりません。
しかし、法人タクシーの場合はお客を乗せて稼いだ金額のうちの何割かを会社に納める歩合給となります。この歩合率は会社によって異なりますが、高いところでも60%〜65%となっております。
そのため、残りの40%近くは会社へと収める必要があり、収入も実際に自信が稼いだ金額よりも少なくなってしまうのです。
一方、個人の場合はガソリンの燃料費や車代、車の維持費といった経費は自己負担としてかかってしまいますが、会社へと納める必要がなくなり歩合の100%が自身の収入にそのままなるので、歩合制でいくらかを会社へと納めることになってしまう法人タクシーのドライバーよりも多く稼ぐ事が可能となります。
もちろん、個人の場合は100%の完全な歩合制となってしまうため、お客が少なく売り上げが悪い時には収入が減ってしまうというリスクを背負ってしまいますが、給与のアップを目指したい方には自分の実力次第で大きく売り上げる事の出来る個人タクシーの方が向いていると言えるでしょう。
また、独立前に会社勤めでタクシードライバーとして勤務して居た方なら今までの経験から何処が稼げるかどうすれば稼げるかのノウハウもあるので収入アップを目指しやすくなるでしょう。
実際、東京都内には年収500万円以上稼いでいるドライバーが多くおり、稼いでいる方の中には、年収800万・1000万円と稼いでいる人も居ます。
個人タクシーを始める事で得られる時間的メリット
個人で始めることにより得られるメリットの中でも大きなメリットの一つと言えるのが時間的な拘束が一切なくなることです。
法人タクシーの場合は、会社に勤めて働くドライバーのためシフトによる時間的な拘束があり、勤務時間以外にも通勤時間や点呼といった時間もありそれらを除いた時間のみが勤務時間となります。
また、法人タクシーは日勤が16時間、隔日勤務で21時間と勤務できる時間にも縛りがありますが、個人の場合はそれらが一切ありません。
個人であればシフトがあるわけでもないので、働きたい時間に働けて、休みたい時に休みながら自身の都合に合わせて働く事が出来るのです。もちろん、自由に働けるからといって休み過ぎて収入が不安定になってしまったら問題ですが、自由に働く事が出来るのはそれらを大きく上回るメリットだと言えるでしょう。
個人タクシーは、始めるまでにさまざまな要件をクリアしていく必要がありますが、それ以上に魅力的な条件で働く事が出来る職業の一つです。
興味を持ったのであれば早めにタクシー会社へ就職し、経験を積み、将来への布石へとしていくのも良いのではないでしょうか。
個人タクシーでも配車センターから配車される?
個人タクシーは個人事業主だから、法人みたいに電話では来ないでしょう…。
答えはNOです。
各地方運輸局にもよりますが、実は個人タクシーにも配車センターはあります。
法人同様にお客様が配車を依頼し、それに応じた形で個人タクシーが送迎を行うという形です。
また、個人タクシーは自動車が法人以上に自由なので、メーカーが多岐にわたるのも魅力です。
平均的にはトヨタのクラウン系が大多数ですが、「アルファード」や「カムリ」「プリウス」そしてごくまれに「センチュリー」もあります。
配車アプリ「GO」が利用可能
なお、法人タクシーでは近年、配車アプリの競争が激化の一途をたどっておりますが、個人タクシーも実はスマホの配車アプリがあります。
タクシー配車アプリ業界の最大手「GO」では日個連東京都営業協同組合との提携によって利用が可能となっております。その他西日本個人タクシー共同組合でも「GO」の利用が可能です。
(地域によって利用可否が異なり、組合全車両が対応ではないようですのでご注意ください。)
個人タクシー開業への支援をしてくれるタクシー会社
個人タクシーを目指す方は、法人のタクシードライバーとして勤務すると効率が良い事を解説しました。所属するタクシー会社の決め方については、以下の方法が考えられます。
(1).特定のタクシー会社でなくても運転経験を積むことが出来るのでどこでも良い
→経験年数を積めればどこでも良いという考え方です。個人タクシー開業の為には、職業としての自動車運転経験が10年以上必要になるので、ある程度の期間まではどこのタクシー会社でも良いと考える事も出来ます。
(2).個人タクシーを開業したい営業区域のタクシー会社に所属する
→自宅のエリアなど、開業したい営業区域が予め決まっている場合は、最初から同じエリアにあるタクシー会社に所属する方が効率的でしょう。
(3).個人タクシーの開業を支援/サポートしてくれるタクシー会社に所属する
→タクシー会社の中には、個人タクシーの開業を積極的に支援・サポートしている会社もあります。営業区域の規定もあるので、一概には言えませんがそういった制度をうまく活用するのも良いでしょう。
▼個人タクシー開業への支援をしている会社の一例
・栄光交通株式会社(東京都足立区)
・ふたえ交通株式会社(神奈川県横浜市)
・東宝タクシー株式会社(神奈川県横浜市)
・有限会社稲毛構内タクシー(千葉県千葉市)
開業後も大手の支援がある『km提携個人タクシー制度』
個人タクシーの開業は、経験年数と条件を満たせば、上段でお伝えした通りタクシー会社各社でその資格を得る事が可能です。
しかし開業後は個人事業主となるので、勝手の利く部分がある反面、車両の維持費や自力での顧客獲得など課題も多い事業であることは間違いありません。
そこで東京都内大手四社の「国際自動車(km)」では2015年から『km提携個人タクシー制度』がスタート。
個人事業主である個人タクシーとして法人の国際自動車(km)と提携を結ぶことにより、国際自動車の各種タクシーサービスを受けれるというメリットが強みです。
10年はあっという間です。未来の個人タクシーを目指すのであれば大手の恩恵を受けれる国際自動車への転職もおススメです!
まとめ
個人タクシーとは何か、必要な知識や経験などをまとめました。個人タクシーの運転経験については、旅客運送以外でも経験年数として認められます。
年齢によって規定もあるので、スムーズに個人タクシーを開業したい方は、早い段階で法人タクシーのドライバーとして経験を積みましょう。