タクシードライバーになるとき、まず必要な資格として必要なのが「普通第二種免許(大型でも可)」と、地域によっては「地理試験」というものがあります。
前者は全国都道府県共通の国家資格なのですが、地理試験においては、対象となる都府県を管轄するタクシーセンターと呼ばれる地域で実施しております。
その地理試験ですが、やはりタクシー業界でも有名なのが東京都内でしょう。いわゆる「特別区・武三交通圏」の地理ですが、東京でタクシードライバーになりたい方は特にこのハードルを越えることが最初の難関ともいわれております。
そんな地理試験が…近い将来無くなる可能性が浮上してきています。
見出し
都内タクシー地理試験を廃止要請。タクシー業界人手不足の大改革へ動き出すか。
東京の法人タクシー・ハイヤーの適正化事業として運営している一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会では、令和5年9月20日、東京都千代田区市ヶ谷の自動車会館で理事会を開催し、東京タクシーセンターの地理試験の廃止に向けて動くことを明らかにしました。
前週の9月13日には『一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会』の正副会長会議を開催。その際、同連合会会長の川鍋一朗氏(東京ハイヤー・タクシー協会会長・日本交通取締役)が「人手確保・車両供給増加の一策として廃止を投げかけたい」と訴えており、実際には東京のみならず大阪・福岡・仙台などの現在13都市で実施されている地理試験についても廃止を求めています。
しばらくタクシー業界としても、当たり前の制度として認識されていた節もありました。なので『人材不足の根本要因』の一つとして捉えられていなかったのかもしれません。
国土交通省に正式要望
今回の東京タクシーセンターの地理試験廃止要望先は、タクシー運営の最たる場所「国土交通省」です。
上述の9月13日の正副会長会議においても川鍋会長は、同席していた国土交通省の鶴田浩久自動車局長に対して「なんとも恐縮だが、お願いしたい」と話しておりました。
また、二種免許に関しても自動車教習所の数や運営など現時点で持ち上がっている問題があり、二種免許取得へのプロセスも現行よりも簡略化できないかどうか国土交通省、警察経由で相談を行うとのことです。
「タクシーが動くほうが利便性に叶う」と判断
9月20日の東京ハイヤー・タクシー協会が開催した理事会では地理試験廃止、二種免許緩和など様々な意見が飛び交ったそうですが、特に現在東京を中心に発生している『タクシー需要と供給のアンバランス』をどう立て直すかに注目が集まりました。
昨日と今日、全国ハイヤータクシー連合会の坂本最高顧問とご一緒する機会があり、タクシー不足の問題についてお話しさせて頂きました。
特に、地理試験の廃止をすべきという点については意気投合。坂本最高顧問の地元の大阪と私の地元の横浜地区(横須賀市・三浦市・横浜市・川崎市)と東京の3つの地区にしかない「地理試験」がタクシードライバーを増やす規制になっていることは明らかですから、規制改革としても、オーバーツーリズム対策としても国交省にはすぐにでも対応してもらいたいと思います。
ちなみに、最近東京で乗ったタクシーの運転手さんは新卒の方でしたが、地理試験に2回落ちて3回目でようやく合格したと言っていました。
【小泉進次郎元環境相:9月12日インスタグラムより抜粋】
新型コロナウイルスの感染拡大もあり、この3年間でタクシードライバーの人口は全国で2割ほど減少したと言われております。
その状況下で現在タクシー需要が爆増し、多くのお客様がタクシーを注文するようになりました。大変うれしいことではある反面、今度は供給が追い付かない状況になってしまったのです。
そのため、東京ハイヤー・タクシー協会では人材確保・車両供給増加を目指し、「地理に弱いタクシードライバーだったとしても現時点ではタクシーが動くほうが利便性に叶うと判断」とし、この地理試験廃止要望を正式決定しました。
川鍋会長は今回の廃止要望決定を、治療の優先順位を決める「トリアージ」に例えています。
全国で行われている主な地理試験の地域(順不同)
タクシードライバーとして乗務する前に取得する「地理試験」。
全国レベルで見ると実施している地域は少ないものの、実施区域はタクシーの適正化事業を行う上で『地理の知識は必要不可欠』ともいえる場所ばかりです。
一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会によりますと、現在地理試験は東京特別区を含め全国13か所で行われていますが、今回はその代表例の地区をご紹介します。
宮城A地区
宮城A地区は、主に仙台地域がメインです。仙台でタクシードライバーとなるためには仙台地区タクシーセンターが実施する地理試験を受験し合格する必要があります。
仙台地域は青葉区・泉区・宮城野区・若林区・太白区と同じ市内でも沿岸部や市内中心、郊外、温泉街へと多岐にわたる景色なのが特徴です。
宮城A地区の営業方法は駅待ちや、アプリ・無線配車などですが、特に仙台駅では国内有数ともいえる巨大なタクシープール(待機所)があり、多くのお客様が列を成して乗車を待っております。
東京特別区・武三交通圏
東京特別区・武三交通圏は東京23区、武蔵野市、三鷹市が営業交通圏のタクシードライバーに必須な地理試験を受講します。
47都道府県で一番道路が複雑かつ人口総数も多い東京都中心部ですから、地理試験も非常に難しく一筋縄ではいかないのが現実です。
しかし試験前には配属のタクシー事業者で対策試験をしっかりと行ってからやりますので、やるべきことをしっかりと行えば合格は遠い話ではありません。平均して2~3回で地理試験に合格するというのは珍しくなく、1発合格も近年は増加傾向にありますが、それでも大したものだと思います。
東京特別区・武三交通圏でタクシードライバーとなるためには東京タクシーセンターが実施する地理試験を受験し合格する必要があります。
神奈川京浜交通圏
神奈川京浜交通圏は、横浜市、川崎市、横須賀市、三浦市がメインです。
基本は自社近辺で営業しますが、昨今はタクシー配車アプリの注文需要増加で神奈川京浜交通圏内でも隣接の市(例:川崎市のタクシー会社→横浜市から注文依頼)からの配車も成立します。もちろん営業も可能です。
神奈川京浜交通圏でタクシードライバーとなるためには神奈川タクシーセンターが実施する地理試験を受験し合格する必要があります。
名古屋交通圏
名古屋交通圏は、愛知県の名古屋市を中心とした12市4町1村が営業エリアです。
▼名古屋交通圏の該当地域は以下の通りです。
名古屋市、瀬戸市、津島市、尾張旭市、豊明市、日進市、愛西市、清須市、北名古屋市、弥富市、あま市、長久手市、東郷町、豊山町、大治町、蟹江町、飛島村
名古屋市内タクシー会社が令和4年12月より値上げ開始【記事】
名古屋交通圏でタクシードライバーとなるためには名古屋タクシー協会が実施する地理試験を受験し合格する必要があります。
京都市域交通圏
京都市域交通圏は、京都府京都市を中心とした8市7町1村が営業エリアです。
京都市域交通圏の地理試験は、他地域に比べると国内有数の観光地という特性もあり、タクシードライバーのプロとなれば各名所やグルメスポットなどに詳しくないといけません。そのため地理試験の内容も地方の他地域に比べ難しいとされています。
戻ってきた観光客、京都はどう対応すべきか【ドライバー転職に役立つ情報】
▼京都市域交通圏の該当地域は以下の通りです。
京都市(旧京北町区域を除く)、向日市、長岡京市、宇治市、八幡市、城陽市、京田辺市、木津川市、大山崎町、久御山町、井手町、宇治田原町、笠置町、和束町、精華町、南山城村
京都市域交通圏でタクシードライバーとなるためには京都タクシー業務センターが実施する地理試験を受験し合格する必要があります。
大阪市域交通圏
大阪市域交通圏は、大阪府大阪市を中心とした8市が営業エリアです。
関西地区でも「初乗り運賃値上げ」が敢行され昨今タクシードライバーの売り上げも増加傾向にある地域です。
また、従来の55割も廃止され、新たな運賃割引が制定されたのも記憶に新しいエリアです。
大阪のタクシー『55割』が今夏廃止へ。新割引設定で営収増加なるか【記事】
▼大阪市域交通圏の該当地域は以下の通りです。
大阪市、豊中市、吹田市、守口市、門真市、東大阪市、八尾市、堺市(旧美原町区域を除く)、大阪国際空港、関西国際空港(発地限定)
大阪市域交通圏でタクシードライバーとなるためには大阪タクシーセンターが実施する地理試験を受験し合格する必要があります。
福岡交通圏
福岡交通圏は、福岡県中心部をメインとした8市7町が営業エリアです。
福岡空港・博多駅・天神と福岡市中心部へもコンパクトに送迎が可能な交通圏で、観光・ビジネス・地元の足とマルチに活躍するタクシードライバーとなるため、地理試験はタクシー適正化のために現在福岡交通圏では必須となっております。
福岡にもタクシーの営業区域がある!エリアの説明とルールの解説【記事】
▼福岡交通圏の該当地域は以下の通りです。
福岡市、春日市、大野城市、筑紫野市、太宰府市、古賀市、糸島市、那珂川市、宇美町、篠栗町、志免町、須恵町、新宮町、久山町、粕屋町
福岡交通圏でタクシードライバーとなるためには福岡市タクシー協会が実施する地理試験を受験し合格する必要があります。
クレーム必須の覚悟の上
地理試験廃止の提案に際し、タクシー業界内外からクレームが上がるのは必須とみられます。
もちろんこれは普段タクシーを利用されるお客様からも、クレームが来ることは必須ですが、それはタクシー事業者各社で地理対策を始め、カーナビ、配車アプリの利用方法を研修で教示する他ありません。
(蓋をあけてみたらクレーム率に変動が無い可能性も高いですが…)
現時点でも地理試験廃止要請に関しては賛成・反対ともに分かれる形となっております。
現役ドライバーとの差は?
現在、地理試験の意義そのものを考える時期というのが賛成派の胸中なのでしょう。
タクシー営業を行う上でカーナビの普及、そしてタクシー配車アプリの事前確定機能の恩恵もあって、現役タクシードライバーの中でも近道は別としてそこまで道を迷うことは少なくなりました。
ただし流し営業は依然として成立はしていますし、渋滞や事故などといったイレギュラーな場合の起点を効かせた近道を誘導させるには、熟練の経験が必要不可欠であり、さらに地理試験という難関を潜り抜けたという自負が後押しすることは言うまでもないでしょう。
さらに現役ドライバーは、退職後に同交通圏内でタクシードライバーに再就職や転職の際は、前職タクシー事業者退職後2年間は地理試験有効というシード権的なものも存在します。
現役タクシードライバーと、今後地理試験が廃止となった際の次世代タクシードライバーの間に、溝が生まれないかも心配ですが、売上など総合的な面での差が生まれそうな可能性もあります。
ライドシェアとの関連性も
地理試験に反対派の中でとりわけ多い理由として「ライドシェアとの関連性」が挙げられます。
菅義偉前首相は令和5年8月末、「ライドシェア」の必要性と解禁を唱え、タクシー業界にも大きな衝撃が走りました。
地理試験や二種免許の規制緩和に関して概ね肯定的な意見は多いものの、「廃止」となるとやはりライドシェアとの関連性に繋がりかねないとし反対を表明するタクシー事業者も存在するのも事実なのです。
もしそれが「トリアージ」なのであれば、いずれか再開する日が来るのでしょうか?
今後は廃止とまでいかずとも、現在「地理試験」はタクシー適正化事業の一環として重要な役割を担っている節目の試験なので、地理試験が無い地域の新任研修で行われている『地理講習・効果測定』的なものを開催し、密度を上げていけばよいのではないかと考えます。
これから~Opinion~
まさに、時代の変化に対応していくという事でしょう。
確かに今、タクシー業界は東京都内を筆頭に需要と供給のバランスが不釣り合いで、多くのお客様をお待たせする事態となっています。
タクシー乗務員はかつてないほどのバブルになっているのは間違いありませんが、それでもアンバランスな状態が続いており、このままではお客様からの信頼の問題に発展しかねません。
対策はいくつかある中で、タクシー乗務員になるための長い研修などの簡素化・簡略化を進めることも一つでしょう。
タクシー業界未経験の方からの転職相談で近頃多い内容の一つである『研修期間の給料がどうしても低い』というネックの部分をここで少しでも短縮できれば求職者の皆さんも「チャレンジしてみよう」という気になるのかもしれません。
廃止と聞き、当初「思い切って舵を切るんだな」と最初に感じましたが、供給を優先することはタクシー業界において喫緊の課題であり、それには人材確保が不可欠です。
廃止というとなんとも寂しいワードですが、決して筆者は全国のタクシーセンターの意義は適正化事業を行う上で消えることはありませんし、これから先も存在意義は強くなると思います。
供給のバランスが戻った時にこそ、その真価はより評価されるのではないでしょうか。