鉄道業界には「オフピーク専用」の定期券があります。
つまり、需要に応じて利用の制限をするもので、通勤客の混雑緩和を図る狙いもあります。
それと似たようなもので…路線バスも土日祝でこども運賃割引など、様々な需要に対しての策を講じています。
実はタクシー業界でも、運賃に関してまことしやかにささやかれていたこの議論…ついに始まるようです。
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タクシー時間変動制運賃(ダイナミック・プライシング)がいよいよ始まる。
国土交通省はこの度、タクシー需要に応じて料金が変動する仕組み「ダイナミック・プライシング」を2023年5月中に導入する予定です。
申請があったタクシー事業者を対象に、配車アプリで事前に目的地までの料金を確定した場合にのみ限定されるとのことなので、すべてのタクシー事業者が対象という訳ではありません。
ダイナミック・プライシングとは?
ダイナミック・プライシングとは、タクシーメディアでも2021年頃から頻繁に出てきている内容ですが、いったい何なのでしょう?
「変動料金制」「価格変動制」「動的価格設定」といった言い方もあり、商品やサービスの価格を需要と供給の状況に合わせて変動させる価格戦略を指します。
身近なもので言えば、スーパーマーケットの安売りや格安航空券もそのひとつです。
狙いは“新規ユーザーへの利用促し”
今回のダイナミック・プライシングは、これまでタクシーを利用してこなかった新規のユーザーなどにも利用を促すことが狙いでもあります。
またこれを機に、タクシーという乗り物を需要と供給に合わせて身近に利用してほしいという狙いも同時にあるのでしょう。
料金変動の内容は?
注目の料金変動幅ですが、『5割増しから5割引きまで』の範囲で行われます。
しかしこの料金変動幅の部分はタクシー事業者が設定可能となっております。
そのため、タクシー事業者は3ヶ月ごとに国土交通省に料金が適切な水準かどうか報告する義務があります。
事の発端は2年前
このダイナミック・プライシングですが、実は『いきなり導入開始…』という訳ではありませんでした。
事の発端はさかのぼること2年前になります。
コロナ禍でタクシー業界がまだ手探りだった頃、既に伏線があったのです。
タクシー料金の規制緩和に取り組む
当時の規制改革担当相であった河野太郎氏が2021年1月15日、記者会見の席でタクシー料金の規制緩和に取り組む考えを話しました。
実は河野氏、その前の年末にも報道番組に出演した折にも「需要に応じてタクシー料金を変動させることができれば、タクシーの需要を喚起することができるのではないか。必要なら法改正も検討したい」と発言しています。
さらに同年5月には、国土交通省が検討を開始する運びとなり、10月には1ヶ月限定で実証実験を開始しました。やはり当時もお客様がタクシーアプリなどで事前に予約を行っていました。
そのため、流し営業は駅待ちは原則としてダイナミック・プライシングの対象にはなりません。
世論はどうなる?
ここで世論はこのダイナミック・プライシングに対して、どのように今回の決定を受け止めているのでしょうか。
タクシーを利用するユーザーもさることながら、日々稼ぐために奮闘するタクシードライバーにとってもかなり大きな問題です。
東京タクシー業界は『運賃改定』したばかり
コロナ禍のタクシー営業収入へ向けてのカンフル剤的な要素もあっただけに、もはや東京都内においては既に『オワコン』という印象も否めません。
というのも初乗り運賃改定を昨年11月に行い、タクシー営業収入はV字回復しました。
それどころか配車アプリの普及やインバウンド規制緩和、マスク緩和、新型コロナウイルスの5類感染症移行により東京都内のタクシーは2019年コロナ禍前をしのぐ売上を記録しています。
そんな中で、コロナ禍の真っ只中で案として出されていたタクシー版の変動運賃制。
当時にその制度が施行されていたら、なかなか画期的でよかったのかもしれませんが、今のタイミングで果たしてよかったのか…甚だ疑問が残ります。
お客様の声
ここではお客様の声をお届けします。
『前からタクシーの料金は高いと思っていたから、この変動制は歓迎』
『雨が降ったり、電車が動かなくなったら、多少料金高くてもタクシー乗りたい』
『料金一律にする必要はないのではないかと思います。深夜終電乗り遅れたら高くても仕方ない』
『なんで日中にこんな料金取られるの!って思ったこと何度もあります。』
『最近よく値段変わりますよね…ちょっとよくわからないです。』
などなど。
お客様の声は、複雑な変動制料金に戸惑いを見せる方がいるも、概ね歓迎の声が多いようです。
タクシー業界・ドライバーの声
タクシー業界や現役ドライバーの声ですが、正直なところあまり歓迎の声は聞かれません。
『当社は導入する予定はありません(タクシー事業者)』
『まだ世間に浸透していませんし、深夜に酔っぱらって乗ってきて“料金が高い”とクレームがきてトラブルになる可能性がある(タクシー事業者)』
『これを受け入れる事業者がいるのかどうか…(タクシー運行管理者)』
『申し訳ないですけど、日中のお客さんが少ない時間に運賃を下げられたら休憩時間に充てる。間違いなくほかのタクシーもそうすると思う。(タクシードライバー)』
ようやく売上が伸びてきた中でのこの制度ですから、ダイナミック・プライシングが需要と供給に本当に当てはまるのか…疑問が残りますよね。
これから~Opinion~
タクシーは“電車やバスなどの公共交通機関の運賃と比べて割高”という事をよく言われますが、いかんせんタクシーはドアツードアです。
電車やバスといった「定められた駅・停留所」への移動でなく「本当に行きたい目的地」まで快適かつフレキシブルに運んでくれるというメリットがあります。
それらは、本質を言えばユーザーのニーズは各々違うわけで、統計学で選定するとなると不利益を被るコミュニティも発生してしまうでしょう。
ダイナミック・プライシングの活用はユーザーの潜在的な需要を掘り起こし、料金設定や時間帯などに課題がありますが、どうにもボトムアップの点がいまいちな気がします。
事業者が導入を決められるというのが唯一の救いではありますが、各社出方を伺うのか、それともほとんどの事業者が行わないのか。
ある意味…今後に注目です。